第26回公演(アトリエ「芝居砦・満天星」こけら落とし)/第28回紫テント(花園神社初見参)公演

作 唐十郎/演出 金盾進

1971年、状況劇場で初演され、
再演不可能と思われた「吸血姫」は、
2000年、芝居砦・満天星にて、
2002年、紫テントにて
花園神社公演を皮切りに全国巡業し、
新宿梁山泊の代表作となった。

<2000年版>
 
<2002年版>
 地下室の「吸血姫」がぶどう色のマントにくるまり、地上に這い出る。
 平成12年、墓に囲まれた東中野のマンション地下〈芝居砦・満天星〉で上演されたその舞台には、横暴このうえない白衣の乱舞と、夢にうなされる程のなまぬるい優しさとやらがひしめいていた。
 もはや再演不能とまで思われていたこの劇は、デカダンスな綾と腕力を振り回して、もう一度動き始めた。
 「ガラスにキスをしたら、赤いルージュが溶けて、川に浮かんだ赤いズロース(下着)になった」と歌う女の神経に、あえて近づきたいとも思った。
三幕の終りに、登場人物たちは、「さよならお世話の都」と言って、この劇を締めくくる。が、この八月、彼らは、そのお世話の都の真っ只中でもある新宿花園神社に、天幕張って立ち現われる。
唐十郎

トラックの荷台に乗って登場する高石かつえと白衣の天使隊。
いいわあなんておっしゃると私は駄目になるタイプです。これ分かります?
これはオマルではない。
恋の白馬だ。
高石くんは、恋の白馬にまたがり、金と恋、いや、不浄なものと純潔なものの相剋に悩み、こんな悩みをしていて浩三さまにお会いする事ができるのかとまで考える。
高石さん、狂った事を無駄にしないでね。
ごらん、ユリ子、月がのぼった。何の月かは知らねども、あの月のきっと僕らと同じお世話月。もう離しはしない。これこそ、僕の生涯かけたお世話の中のお世話。
このほおずきの中に夕方色の肉があるでしょう。これをもんでいると、甘ずっぱいジュースになるの。
ほら、見えるでしょう、関東大震災が!
あなたには聞こえなかったんですの?大正12年、傷つき、倒れ、父と子にはぐれた女たちが、上野の山へ上野の山へ愛するものの名を呼びながらさまよっていたあの皆さんの声が聞こえなかったんですの?
私とさと子の夢は永遠に関東大震災に停っていなければならないからです。それは、この子の夢の時代でもあるのです。
さあ、さと子、お父さんと関東大震災を見にゆこう。
しばらく、川島浪速だ。
君、川島芳子は死んだよ。
あそこには君の知らない都がある。君の知らない海がある。それは日本と大陸をつないでいる氷の海なんだ。月の明るい夜にその氷の海は、薄紅色に光り、その海に恋人たちはソリを走らせる。すると薄紅色の海は青くなり、もっと先にゆくとただ、真暗な海になる。
ここが上野の森ならば、私、どこへでもゆきます。あらた、あたしどこへでもゆきますわ。川島さんにつれられて皆さんのいらっしゃる氷の海に参りましょう。
俺、あんた助けに来たぜ。あんた俺に何もできないと思ってたんだろ?え?図星だろう。血を売る人間は皆血の気がうすいと思ってんだろ。よお。ところが俺の名前はダテじゃねえ。肥後は肥後でも肥後の守だったんだぜ。

俺の天職は、姉さん聞きなよ。俺の天職は明日からおたずね者よ。姉さん、ここは俺が切り開く。姉さん、早く家に帰んなよ。

ブローカーの花形、本を手に現われる。近くに平たいところを探し、閉じた本を押したり、乗ったりしている。つまり、何かのシオリをつくっているのだ。それが牛肉のシオリだったらどうだろう。
私は、そこで、港の近くの靴屋でジャイアント馬場と同じ文数のズックを買いました。それから、薬局で五円の軽便カミソリを買いました。そして、異人さんのいる港に戻り、軽便カミソリで腕の静脈を切ると、白いズックに垂らしたのです。

浩三ってんだ。そいつの名は。どうして分ったんだい?

顔に書いてあったんですよ。ほら、そのおデコに。消しといた方がいいですよ。

そこにいるのは誰だい?ほおずき、君なのかい?薄紅色の海がこの山の向こうにあるというのは本当かい?僕には君の言うことが聞こえないんだ。そこにいるのは誰だ。僕一人しか居ないんだろうか。それはつまり僕自身なんだろうか。
ほら、海鳴りが聞こえるだろ。地下鉄のずっと向うに─ お前の肉は、まだ夕方色ね。病院にいるとそれが白くなってゆくのよ。血の白くなってゆくのは当り前じゃないか、殺人者。
さと子には青春も愛もない。さと子にはお世話があるだけだ。
車が空ならば、絶望の車かも知れない。しかし、今夜から、さと子さんが乗る青春と愛の車なんだ、これ。

悪いお父さんは、それから、もう人形を切りきざまなくなりましたか?

いいえ。お母さんの人形の代わりに、あたしの乳房を切りました。
ですから、あたし、乳房がないの。

あんたのお母さんの人形を見つけたのはこの俺さ。切り取られた胸に、ほおずきを二つ乗せると、夕焼に光って、それだけが焼けて古くなった君そっくりのからだに、夕方色の影をつくっていたっけ。この二つのほおずき、俺、これをあんたにあげる。

さようならお母さん、さようなら、あたしのさと子。

お母さん、あまりの痛さにウンコが出ちゃった。もうすぐ、あたしは、上野の銀杏の森にゆきます。今夜は、ぎんなんも熟れて、月もきれいだから、あたし、まるで、象牙の墓をさまようウンコだらけのけものみたい。
あの森の向うには、まっ暗な海があって、その向うには、青い海があってそれをもうちょっとすべってゆくと、薄紅色の氷の海。あたし、皆さんと一緒に引越してゆくんです。 青春、愛、挫折、希望・・・・
  夏の海辺に行ったとき
まだ見たこともないものを見た
あそびなれた砂浜に
病院が一つ立っていた
門という門は閉ざされ
窓という窓にはクギ
塀を乗り越え
やさしい花々の咲き匂う
中庭に降りると
そこに俺の見たものは一面の墓

(撮影:夜光)
花々に囲まれた墓石ばかり
しかも
白ずくめの看護婦たちが
あたりをさまよい
おいらの希望を愛に染めた

 

◆上演の軌跡◆
2000年    
東京 梁山泊アトリエ 芝居砦・満天星 11月10日(金)〜12月3日(日)  
 
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
1
2
3
15時開演












19時半開演

2002年━毎夜7時開演 於:特設紫テント━

 
東京 新宿・花園神社 8月15日(木)〜18日(日)  
大阪 扇町公園 8月24日(土)・25日(日)  
愛知 田原町・シロキヤ跡地 8月31日(土)・9月1日(日)  
東京 港区 六本木・旧三河台中学校庭 9月8日(日)〜14日(土)  
仙台 西公園・旧図書館前広場 9月20日(金)・21日(土)  
金沢 金沢市民芸術村憩いの広場 9月28日(土)・29日(日)  
岐阜 飛騨国府町福祉の里広場 10月12日(土)・13日(日)  

 

STAFF     CAST
2000年
2002年
舞台監督 村松明彦+ZEST 高石かつえ 梶村ともみ 梶村ともみ
照明デザイン 戸谷光宏 海之ほおずき─謎の引越し看護婦 近藤結宥花 近藤結宥花
照明オペレータ 泉次雄+Fスタッフ 袋小路浩三─愛染病院若博士 小檜山洋一 小檜山洋一
舞台美術 大塚聡+百八竜 花形─歌謡界の鬼 金 守珍 鳥山昌克(唐組)/黒沼弘己
振付 大川妙子 中年男─ある時はバーテン、ある時は男の中の男 大久保鷹 大久保鷹
劇中歌作曲 小室等,大貫誉

肥後守─天職をさがす少年

稲荷卓央(唐組) 稲荷卓央(唐組)/原 昇/大貫 誉
音響 N-TONE 旦那 大貫 誉 大貫誉/松岡哲永
宣伝美術(画) 梶村ともみ ユリ子─さらわれる人妻 渡会久美子 渡会久美子
宣伝美術(デザイン) 姜尚仁(2000) 少女の父 原 昇 原 昇/大貫 誉
  福田真一(2002) 看護婦長 三浦伸子 三浦伸子
舞台写真撮影 夜光 白衣の天使隊 看護婦1 もりちえ/李 秀子 李 秀子
    白衣の天使隊 看護婦2 岩村和子 岩村和子
    その他看護婦 岩崎幸代,沖中咲子 沖中咲子,草野小夜架,池田実香
    老人 松岡哲永 沈 友信
    海パン男・蹴る男 尹 秀民 尹 秀民
    車夫 堀田 誠 堀田 誠

◇室井 尚氏(横浜国立大学教育人間科学部助教授)の劇評

→目次 →年表