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◆物語◆
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東京の下町で二人の男女が出会う。精神病院から逃げてきた青年「織部」と宇都宮から流れてきたホステスの「エリカ」。二人はこの物語の中では恋人同士ですらなく、ただ、『風の又三郎』のイメージを介して結びつくもろい関係。
汚濁した世間で生きていくことができずに病院に収容され、それでも、自分を連れ去る風の少年に憧れる織部は、その面影をエリカの中に見い出す。エリカは自衛隊の練習機を乗り逃げした恋人を探す道連れとして、この純真な青年を利用する。探し当てた恋人はすでにこの世の人ではなく・・・・。 ガラスのような精神を抱え、傷つきながらもひたすらに、自らの「風」である女を守ろうとする青年と、いまわしい血の記憶に翻弄させる女との、恋よりも切ないものがたり。
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料金 | 全席自由/整理番号付 前売=3,500円 当日=3,800円 学生=3,300円(劇団扱いのみ・受付にて学生証提示) |
開演は毎夕7時。開場は開演の20分前。受付開始は開演の1時間前より。
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1974年、東京・夢の島。そこに突如出現した真紅のテントで1本の芝居が上演された。整理券を待つ長蛇の列。待ち時間が5時間をゆうに超えるというのに当日券を求めて続々と増えつづける観客。今となっては伝説としてしか耳にすることのできない唐十郎率いる「状況劇場」の新作公演だった。その芝居を荒涼とした風に翻る"紅テント"で実際に観たという年長者に出会うたび、いつも悔しい思いをしてきた。「根津甚八が叫び、小林薫の台詞に観客が沸いてね」と語るその日の体験は、まるで幸福な歴史的事件の生き証人のそれだったからだ。 その作品『唐版 風の又三郎』が帰ってくる。宮澤賢治の童話をモチーフに、奇才唐十郎のイメージが奔放に紡ぎ出した作品だ。汚れきった世間と折り合いをつけきれず病院に収容され、それでも自分を連れ去る風の少年を待ちつづけるひとりの男。自衛隊の練習機を乗り逃げした恋人を探すひとりの女。ガラスのような精神を抱え自ら「風」と信じる女性を守ろうとする青年と忌まわしい血の記憶に翻弄される女性との物語。上演するのは「新宿梁山泊」。かつて「状況劇場」に所属し"快優"と呼ばれた金盾進が演出を務める。映画『夜を賭けて』を監督し話題になった人物でもある。過去の作品では放浪する家族を演じる役者たちを本物の筏に乗せて遥か海の彼方から登場させたり、終幕でテントの壁を振り落とし、そこに広がる現実の風景そのものをテントの中の芝居の世界に取り込んだりと劇的な演出で観客の度胆を抜いてきた。自らのDNAでもある唐十郎の作品を"紫龍テント"でどう料理するのか注目したい。 その日、その場所で、その芝居を観たという特権的な体験は、生涯にわたって幸せな時代の証人たることを約束してくれる。29年前、夢の島であの芝居を目撃した者たちが今なおそうであるように。 |
三名智輝(萬文筆家)
アシェット婦人画報社ヴァンテーヌ2003年7月号より |