朝日新聞12/3夕刊掲載
映画 夜を賭けて 伝説のアパッチ族、熱く再現
 
 ちょっと荒っぽいが、すごい力のこもった映画である。
 いまはきれいな公園になっている大阪城の脇の広い範囲に、敗戦まで東洋最大と呼ばれる陸軍の兵器工場があって、終戦前日の大空襲で壊滅した。その跡地には膨大な量の屑鉄が埋まっていたが、これを在日コリアンの多い近くのスラムの住人たちが昭和33年に大挙して掘り出して屑鉄屋に売った。
 ほうりっぱなしの屑鉄でもいちおう国有財産なので、警察はこれを窃盗集団として追いはらい、逮捕しようとするが、隙をねらって神出鬼没する集団の行動は素早く、マスコミはこれを西部劇のアクションに見立ててアパッチ族とはやしたてた。結局は警察に制圧されて終わるにしろ、捨てられているモノを再利用して何が悪いとばかり、アタマと体の全力をふりしぼるアパッチたちの行動は元気に満ちており、被差別の意地と根性もあって多くの武勇伝を生んだ。
 いまや伝説に近いこの事実を、この映画は韓国に大きなオープンセットを組んで再現した。滑稽で悲惨でもあるスペクタクルの大作である。原作は梁石日、監督は舞台演出で活躍している金守珍。在日パワーの精鋭を、スタッフ、キャストの日本と韓国の映画人が合宿して働いて大きく盛りあげている。主役の山本太郎やこれが遺作となった清川虹子をはじめ、出演者はみんな大声でわめくし大げさに演技する。はじめは芝居くささとして気になるが、それがさいごには悲壮美と言っていいような輝きに結集してゆくあたりが気迫の勝利だ。
 差別のひどかったあの時代を俺たちはまなじりを決したり屁っぴり腰だったりしてこう生きた。悔いも多いが痛快だった。日本人にも韓国人にもこれを知ってもらいたい、という思いがまっすぐにふきあげてくるような勢いがある。
(佐藤忠男・映画評論家)
 

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