『映画芸術』平成15年2月号
2002年度 ベストテン・ワーストテン

中村賢作(新潟シネ・ウインド)
〜(前略)
 ああ、それにしても──『第三の男』だったか、圧制の時代からダ・ヴィンチやミケランジェロが生まれ、平和な世の中から生まれたのはハト時計だけだったという意味のセリフがあった。ハト時計しか生まれなくても、平和な世の中のほうがずっといいと私は思う。確かに人類は戦争をはじめとした数々の悲劇の中から、優れた文学や絵画や映画などを生んできた。だが、ひとつだけはっきりしている。ここ数カ月間、連日のように、この国の民のみの悲劇として煽り立てられている拉致騒動からは、すぐれた文学や映画は生まれっこない。歴史を省みることなどしない身勝手な被害者意識のバーゲンセールからは、『夜を賭けて』で、民族分断の悲劇を、時に喜劇へ冒険アクションへ、そして前へ進まんとする怒りのエネルギーへと見事に転化させた金守珍の映像の迫力はけして生み出せない。

 

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