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1夜を賭けて
とにかく勢いのある日韓合作。梁石日の直木賞候補作を劇団・新宿梁山泊の座長、金守珍が映像に。主演は山本太郎。

1958年、鉄屑窃盗集団アパッチが大阪の夜を暴れ回る
 あまりにもストレートな直下型地震級。主演の山本太郎をはじめ俳優の過剰な演技も、ベタな音楽の入れ方も、見ているほうが恥ずかしくなるほどだ。しかし欠点もぶっ飛ぶパワーが、ここにはみなぎっている。
舞台は'58年の大阪。終戦前日に爆撃された兵器工場の跡地へ「アパッチ族」が忍び込む。彼らは集落に住む在日コリアンたち。警備網をくぐって鉄屑を拾い、売りさばく。危険を伴う重労働。けがする奴、命を落とす奴・・・。おのれの全存在を「賭けて」夜を「駆ける」男たちの肉体が、どくどくと息づいている。
 彼らの目の輝き、肉体の躍動はどうだろう。昔の時代を今の役者が演じた場合、風貌にどうしても現代的なやわさが残ることがあるが、この男たちは武骨で泥くさい。汗が、匂いが、スクリーンを抜けて降りかかる勢いだ。新宿梁山泊で芝居を演出してきた金守珍は、粗削りながらも魂を感じさせるデビュー作を完成した。初めてだからこそなせるわざか。あまりにも純粋すぎて「クレメンタインの歌」を口ずさむシーンなんて、こっちまで泣けてくるではないか!
 セットは梁山泊の劇団員が手作りで再現。人が集まれば殴り合いの喧嘩が始まる集落の日常には、小劇場的アプローチがよく似合う。熱湯が顔にかかったり、キムチが顔にへばりついたり、役者も体を張っている。そのせいか、短い出番でも印象的な人が目立つ。これが遺作となった清川虹子は痛々しいまでの存在感だし、樹木希林のアップは不気味で神々しい。今の北朝鮮問題にもつながる日本社会の闇と在日コリアンたちのたくましさが、笑いと涙でごった煮されている。「青春とは無視され続けるもんや」なんてセリフを、自分も青春時代に言ってみたかったなぁ。でも本作は、決して無視できるものではない。
(杉本千春)
 

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