現在上演中の日韓合作映画『夜を賭けて』は傑作である。原作は直木賞候補になった梁石日の小説。1958年、大阪造兵工廠跡地で半年に亘り繰り広げられた、在日朝鮮人を主軸として原作者も加わった大規模鉄屑窃盗団、人呼んで「アパッチ」の顛末を描いている。デートも出来ぬ「警職法」と言われた「警察官職務執行法」反対闘争が全国的に高揚、李珍宇の小松川女子高生殺人、年末には共産主義者同盟(ブント)が結成された年でもあった。オイラ当時8歳、時代の雰囲気は辛うじて記憶している。この事件、翌59年に開高健が『日本三文オペラ』として小説化し、64年には小松左京のSF長篇小説『日本アパッチ族』の題材ともなっている。そして当事者の小説。この三冊、発表の順とは逆に後の方ほど出来がいい。そりゃ当然か。
さて映画だ。原作を読んだ時、当時から40年以上も経っていて、戦後の瓦礫の跡地や朝鮮人部落などの風景を、映像化するのは不可能ではないかと思っていたのだが、韓国に作られたオープンセットで、見事に再現されていた。監督は劇団新宿梁山泊座長の金守珍。これが初監督作品だが、映画的演出とは異なったエネルギッシュな演出だ。脚本は丸山昇一。主演の山本太郎は『バトルロワイヤル』『光の雨』での存在感とは別な側面を見せている。韓国からはユー・ヒョンギョン。山田純大はニヒルなヤクザを演じ、まるで黒沢明『酔いどれ天使』の三船敏郎のようだ。いけねえ元ネタをバラしちまった。吉本隆明オススメの女優風吹ジュン、脇役に演技派の奥田瑛二、樹木希林、そしてこの作品が遺作となった清川虹子。この他、唐十郎、李麗仙、大久保鷹、不破万作と、かつて状況劇場の役者がずらりと揃い、梁山泊関連の役者達も総出演。音楽は在日のヴォーカリスト朴保。撮影スタッフは韓国サイドが受け持っている。ここまで揃えば面白く無かろう筈はない。この映画を在日の青春映画とだけ評する向きもあるが、それでは歴史感覚の喪失じゃないか。こうした時代が日本人を含め、かつてあったのだ。
この映画を見てオイラ思い知らされた。映画とは映像表現だけでは無い、監督や脚本、役者、スタッフのエネルギーのぶつかり合いとその表現であると。昭和40年代、大島渚などの独立プロ、若松プロのピンク映画、日活ニューシネマ、実録路線を最後とする東映ヤクザ映画等、皆そうしたエネルギーの総体表現であった。現在の映画の多くは、監督の自己表現や映像論の集約でしかないように見受けられるが、一方で、昭和40年代映画への評価も高まっている。見たまえ、この映画にはそれらのエネルギーが充満しているのだ。
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